黄瀬戸や三島手の模様など、古典的な要素を取り入れつつ、どんなライフスタイルにもすっとなじむ愛らしい雰囲気を感じさせる岡村さんの器たち。関東出身の岡村さんは、やきもの好きだった姉に連れられて益子の陶器市などにしばしば足を運んでいた。また家庭では、料理好きな母の影響で、普段づかいの食器としての陶器の魅力に触れながら育った。 高校卒業後、飲食店での勤務経験などから、豊かな食卓に欠かせない器の存在感と重要性を再認識したという岡村さん。
転機となったのは、20代前半の頃、たまたま足を運んだ展示会。100人の陶芸家の作品を一堂に集めた展示会で、それまで抱いていた陶器への印象が一変した。芸術品としての美しさを放つやきものの数々を目の当たりにしたことで、暮らしに彩りを添えるための食器を“使う”という視点から、いつしか自分の手でこんな陶器を“作りたい”という思いへと変わっていたとか。
アルバイト生活で貯めた蓄えを元に、単身で多治見へ。多治見工業高校の専攻科で陶芸を学び、多治見市市之倉の工房で絵付けや釉薬掛け、窯詰めなどの基礎をみっちり身につけた後、土岐市へ移り住んだ。
今は、陶芸家を志すきっかけとなった芸術的要素の強い作品づくりに勤しむ一方で、原点でもある家庭で使う器の制作を並行して進める岡村さん。
「芸術品としてのやきものは、これからもずっと作り続けていきたい。でもまずは多くの方に、陶器に親しんでもらうことが大切。食事やお茶の時間、テーブルに並べる普段づかいの器を通して、日本古来の文化に触れてほしい」と、伝統的な技法や風合いを生かした和食器を生み出している。岡村さんが作る器たちは、伝統工芸として受け継がれるやきものの奥深い魅力を、無理なく等身大で親しむきっかけになってくれる。
岡村宜治(おかむらよしはる)さん
神奈川県相模原市出身。高校卒業後、ベーカリーショップや飲食店で勤務。20代前半の頃に見た陶芸家100人の展覧会に衝撃を受け、陶芸作家を志す。24歳の時、岐阜県立多治見工業高等学校の専攻科(陶磁科学芸術科)へ入学。卒業後、多治見市市之倉の工房に就職し、陶芸の基礎を身に付ける。その後、土岐市に移り住み、独立。