日本酒の主な原料は米と水。シンプルな組み合わせだからこそ、風土、気候、作り手の思いが味を大きく左右し、蔵の個性となって表れる。
岡崎市の北部、豊田市との境にある保久町神水ほっきゅうちょうかんずい。
その地名が表す通り、日本酒造りの肝となる清澄な水の恩恵を授かり、江戸時代から蔵を構えるのが「柴田酒造場」だ。
代表銘柄は「孝の司(こうのつかさ)」。まろやかな味わいでありながら、口の中に広がるうま味が心地よい余韻を残してくれる、やさしい酒。
料理の味わいを引き立たせつつも、しっかりと酒としての存在感がある、食中酒としての日本酒の真骨頂とも言うべき味わいだ。
この一滴を生むのは、まさに神の水とも言うべき0.2度という極めて硬度の低い軟水。
夏でも冷たく、口当りがマイルドなこの水は、蔵を抱く小高い丘から引いている地下水。緑に囲まれた手つかずの森にいくつもの井戸を掘り、酒造りに最適な地下水を探り当て、米洗いから仕込み、割水にいたるまで、すべてこの天然水で仕込んでいる。
蔵の入り口にある売店ではこの水を汲めるように蛇口が設けられており、お茶やコーヒーを淹れる時や米を炊く際に用いると味が変わると地元客の間で評判に。容器持参で水を汲んで帰る客も少なくない。
「井戸水は永遠ではなく、水流は自然環境や天候によって、刻々と変わります。酒の味を守り、より良い酒を造るために常に良い水を探しています」と語る八代目の柴田秀和さん。
森を守り、水の恵みに感謝しながら伝統の味わいを受け継いでいる。
「孝の司」の名は、病気がちな父親と暮らす働き者の息子が、酒好きの父のために酒の湧く泉から毎日酒を汲み、飲ませていたことで父親が元気になったという民話に由来する。
「柴田酒造場」の酒は、「神の水」が生んだ奇跡の酒であるという自負が、その名に込められているようだ。
近年は地元産の米を使った日本酒をはじめ、梅やぶどうなど、岡崎の特産品を取り入れた酒も登場。
土地に根付き、愛され続けてきた蔵元が生む酒は、郷土がもたらす自然の恵みを伝えていく。
柴田酒造場
岡崎市保久町神水39
0564-84-2007
営業時間/8:00~17:00(土曜 は9:00~)
休業日/日曜
アクセス/ 東名高速 岡崎ICより約40分
http://www.kounotsukasa.co.jp