記憶に刻まれる、大人のためのケーキ

『N Drive ふじのたから』で紹介した「weekend books」の高松さん夫妻に「何度食べても感動するケーキです」と満面の笑みで薦められ、胸を躍らせて訪れたカフェ「irodori」。古い日本家屋の玄関の戸を開けると、正面のケースに並ぶ飾り気のない生ケーキにひき込まれる。この日に出会ったのは、旬を迎えたばかりのクラウンメロンのショートケーキ。潔さすら感じる端正なフォルム、真っ白いマスカルポーネのクリームが平らに塗られ、メロンが一切れのったシンプルな見た目でありながら、カット面からはみずみずしく、きらきら輝くメロンがしっかりと主張する。オーナーパティシエの浅賀正人さんは「美味しいケーキのためなら何でもするけど、デコレーションしない方が美味しいと思うから今のスタイルを貫いているだけ」と話す。材料も道具も一切妥協せず、手間を厭わない。「一つひとつのケーキに魂を込める」という浅賀さん。
空気をいっぱい含んだスポンジと、一層ずつにしみ込んだシロップが生む絶妙な口どけに、思わずため息が漏れた。浅賀さん渾身のスイーツと向き合うひとときは、大人だけに許された上質な幸せ時間なのだ。

築90年の日本家屋で洗練されたスイーツを

「毎日全力で作っているけど、納得できる味に仕上がるのは年に数回かな。その時は嬉しくなって、スタッフのみんなにふるまうんです」と笑う浅賀さん。洋菓子でありながら日本家屋にしっくりと馴染む。ゆったりとした空気感の中に漂う凛とした和の繊細さ、旧建築ならではの重厚感が浅賀さんの生むスイーツの姿と重なるからだろう。「メロンのショートケーキ 」、クリーミーなレモンカードをたっぷりのせた「レモンパイ」は夏季限定メニュー。定番のくるみ入り「アップルパイ」はバニラアイス付き 。