美濃焼のメッカである土岐市で、窯業を営む家に生まれた田中源さん。幼い頃から、身の回りにはあたり前のように作陶に関わる道具や原料、情報があふれ、陶芸家としてはこの上なく恵まれた環境で育ったようにも見える。
高校卒業後は、何の疑いもなく陶芸を学ぶために多治見工業高校の専攻科へ。だが10代後半から20代半ばにかけて、正面から陶芸と向き合うことを避けていた時代も。海外を放浪したり、リゾート地でバイトをしたりと、郷土や陶芸の世界から距離を置くことで、新たな発見や刺激を求めていた。だが30歳を過ぎた今は、不思議と“外”への意識は湧いてこなくなったと言う。
「現状に満足しているわけではないけれど、この環境やスタンスでしか作れないものがあると思う。今は漠然とした“いつか辿り着きたい、自分が作りたいもの”を実現するために、あらゆることに挑戦している段階。イメージを具体的な形にしていくために、いろいろな材料を集めている感じです」と話す田中さん。
「釉薬や素材の組み合わせなど、面白いと思ったことは何でも試しています。自分が作りたい形を素直に表現することが、陶芸の醍醐味」と語る田中さんは、磁器の硬質さと陶器の軟らかさ、艶感とマット感、有機的と無機的の共存など、対比やギャップの面白味を独特の感性と技法で表現。陶芸の理想も現実も、すべてを受け入れてきたからこそ表現できる世界を、追い求めている。
「陶芸を志す喜びも苦しみも、焼き上がりの窯を開ける瞬間にすべてが凝縮されている気がします」。そう言ってほほ笑む田中さんが、胸を高鳴らせながら窯を開けるたびに始まる、新たなやきものの物語に期待が膨らむ。
田中 源(たなか はじめ)
岐阜県土岐市出身。陶芸家を父に持ち、幼い頃からやきものに囲まれて育つ。高校卒業後、岐阜県立多治見工業高等学校の専攻科(陶磁科学芸術科)へ。伝統工芸士である小栗正男氏の下で約4年間学び、家業の手伝いを経て独立。「テラスゲート土岐」で陶芸教室の講師を務めながら、展覧会を中心に作陶活動に励む。