72万個の試作の末にたどりついた、新しい“快眠の形”-まくらのキタムラ【愛知県北名古屋市】

90年の歴史を後ろ盾に“眠り”と向き合い続ける

「人が眠っている間に寝返りをする回数は、20回とも30回とも言われている。それなのになぜ枕は、仰向けの体勢だけを考えた四角い形なのだろうか」。そんな一人の使い手としての率直な疑問が、開発のきっかけだった。疑問を解決するためにつくった枕は約72万個。その結果、誕生したのが新たなそら豆形の枕「ジムナスト」シリーズだった。

「まくらのキタムラ」のルーツはおよそ90年前。1923(大正12)年、綿布商「北村商店」を興した初代・貞吉さんは、綿織物業の産地として栄えていた三河地域から木綿製品などを仕入れ、名古屋市中区の長者町繊維街で商いをしていた。以来、時代の変遷に合わせて二代目・卓彌さんが寝具類の製造、販売を開始。三代目の貞明さんへと継承されると、その品質の良さから、大手メーカーや百貨店からの発注が相次ぐ会社へと成長した。

四代目である現在の社長・圭介さん曰く「当社の一番の強みは“歴史”。それはどれほど足掻いても一朝一夕でつくられるものではなく、決して追い越せないもの。曽祖父、祖父、父をはじめ、これまで会社を支えてくれた従業員や職人の方々がモノづくりと真摯に向き合い続けてきた証だと思います」

90年の歴史を後ろ盾に“眠り”と向き合い続ける まくらのキタムラ

豊かな眠りを届けるためにたどり着いたそら豆形の枕

しかし、実直なモノづくりへの取り組み、歴史に裏付けされた信頼があろうとも、海外製品との価格競争など押し寄せる時代の荒波には抗えなかった。そんな時、貞明さんから新風を吹き込む切り札としての役割を託されたが圭介さんだった。今、自分たちに求められていること、これから必要とされることは何なのかと思案を重ねた結果、圭介さんがたどり着いたのは「人間の三大欲求の一つでもある睡眠。その姿勢は人それぞれで、しかも一晩中動き続けている。私たちが本当に届けたいのは、枕という商品ではなく“快適な睡眠”である」という思い。「一生の内、3分の1とも4分の1とも言われるほど、人が生きる上で睡眠が占める割合は大きい。その時間をいかに心地よく、豊かに、充実したものにできるか。そのお手伝いをしたいと願っています」。

その思いを叶えるためにまず着手したのが、あたり前のように使われている四角い枕の形の見直し。弧を描くように寝返りを打つ人の身体の動きに合わせて、100数十種類の形を試作。さらに永年の仕入れルートを駆使し、48種類もの中から中材に使用する素材を厳選した。何度も何度も作っては試し、試しては作り直しの繰り返し。従業員や関係者が一丸となって2年以上の歳月を費やして完成したのが、「ジムナスト」シリーズを象徴するそら豆形の枕だった。

豊かな眠りを届けるためにたどり着いたそら豆形の枕 まくらのキタムラ

培われた縫製技術と新しい感性で“元気なおはよう”を世界へ

現在、「まくらのキタムラ」の主力商品である「ジムナストプラス」や「ジムナストコロン」では、そら豆形の枕を6つの部屋に仕切り、弾力性や柔軟性、通気性、耐久性、吸音性など各部屋の役割ごとに4つの中材や最適な生地を使い分けている。枕の常識を覆す曲線、複雑な構造、異素材の縫い合わせ…。職人泣かせの理想形を実現できたのは、長年の歴史の中で築き上げてきた縫製技術と、作り手たちの意識の高さだった。「大手メーカーや百貨店への納品を長く手掛けてきたことで、職人の方たちの中に脈々と息づいてきたモノづくりへのプライドがあればこそ商品化できたのだと思います」と圭介さん。

培われた縫製技術と新しい感性で“元気なおはよう”を世界へ まくらのキタムラ

40年以上、縫製一筋という職人は、20年以上前に製造されたミシンやドイツ製の年代もののミシンを巧みに操る。素材ごとの張りの違い、糸の引き具合を指先で感じ取り、わずかな力の加減で布の送り方を微調整しながら、見る見る内に縫い上げていく。その仕事ぶりをしっかりと脳裏に焼き付けながら、傍らでは20歳代の若き新戦力がミシンと格闘を続ける。
また、中京大学の学生との産学連携プログラムでは「ジムナストミニ」を開発。それまで、一日の最後に布団やベッドに横たわって眠る時間を、より豊かで快適なものにしたいという一心で枕と向き合ってきた「まくらのキタムラ」。
そんな固定概念を覆したのが、「深夜バスで旅行を楽しんだり、ちょっとした空き時間に仮眠をしたりする時に使う携帯用の枕がほしい」という学生たちの声だった。体当たりでリサーチ、討議を重ねた学生たちは、携帯にふさわしい大きさ、素材、価格帯などを追求。職人たちと意見交換を重ねながら完成した商品はGOOD DESIGN AWARD2012にも輝くなど、「まくらのキタムラ」の代表商品の一つとなった。
培われてきた技術力と誇り。そこに加わる新しい感性との融合こそが、今の「まくらのキタムラ」を支える最大の強みである。「地球上に70億人が暮らしているとすれば、70億通りの眠りがある。そのすべてに応えるのが夢です。根幹にあるのは“元気なおはよう!”を増やしたいという思い」。そう語る圭介さんの脳裏から、「眠り」への探究心が消えることはない。

培われた縫製技術と新しい感性で“元気なおはよう”を世界へ まくらのキタムラ

プロフィール

1923(大正12)年、綿布商「北村商店」として創業、2009(平成21)年株式会社Kitamura Japan設立。
愛知県北名古屋市に工房を構え、枕の製造・販売を手がける。2006(平成18)年、人間の眠りの姿勢に関する研究を重ねて誕生した「ジムナスト」を皮切りに、グッドデザイン賞を受賞した「ジムナストプラス」「ジムナストミニ」「ジムナストコロン」など数々のヒット商品を生み出している。
http://www.kabu-kitamura.com